
- 1. はじめに
- 1.1. スポーツ業界の資金事情:なぜ今、問題が表面化したのか
- 1.1.1. 国や競技団体の予算縮小
- 1.1.2. 選手の遠征費が自己負担に
- 1.1.3. 世界ランキング重視の現実
- 1.2. 日本バドミントン協会の事例:五輪メダリストであっても厳しい現実
- 1.3. アスレティックトレーナーに求められる視点
- 1.3.1. 1. 資金調達やスポンサー活動のサポート意識
- 1.3.2. 2. 総合的なリスクマネジメント
- 1.3.3. 3. 情報収集とネットワークづくり
- 1.4. 今後の展望とアスレティックトレーナーの可能性
- 1.4.1. スポーツ界のビジネス化が加速
- 1.4.2. 独立系ATの活躍機会拡大
- 1.4.3. 医療やITとの融合
- 2. まとめ
はじめに
近年、国内外のスポーツシーンでは「強化費の不足」や「遠征費の自己負担」が大きな話題となっています。特に日本バドミントン界では、五輪メダリストでありながら、日本代表を辞退する事例が出るなど、これまでにない事態が表面化してきました。
こうした動きは、選手本人だけでなく周囲をサポートするアスレティックトレーナー(AT)にとっても他人事ではありません。今回は最新のスポーツ業界における金銭事情の変化と、その中でアスレティックトレーナーとして活動を続けていくうえで押さえておきたいポイントをまとめました。
スポーツ業界の資金事情:なぜ今、問題が表面化したのか
国や競技団体の予算縮小
コロナ禍の影響や、助成金の減額、さらには日本バドミントン協会で発覚した横領事件によるペナルティなどが重なり、各競技団体の強化費が大幅に削減されています。特に五輪後はスポンサーや寄付金も減少し、これまで潤沢だった強化費が激減するケースが増えました。
選手の遠征費が自己負担に
バドミントン協会では、世界ランキング上位の“トップコミットメントプレーヤー”のみを協会派遣の対象とし、それ以外の選手は遠征費を自費負担するシステムが導入されました。所属チームが費用を負担してくれる場合もありますが、個人でプロ契約をしている選手は自己資金でまかなわざるを得ません。この流れはバドミントンに限らず、フェンシングや他の競技でも同様の問題が起こっています。
世界ランキング重視の現実
国際大会に出場し続けることでポイントを獲得し、世界ランキングを維持・向上させることが多くの競技で最重要になります。しかし、遠征費が自己負担となると資金面で苦しくなる選手が増え、結果的に世界ランキングを上げる機会を失うリスクも高まります。
日本バドミントン協会の事例:五輪メダリストであっても厳しい現実
バドミントンの五輪メダリストが日本代表を辞退したニュースは、多くの人に衝撃を与えました。従来であれば、オリンピアンやメダリストは競技団体から最優先で支援される立場でした。しかし今回の辞退は、協会の財務状況悪化に加え、トッププレーヤー以外への支援縮小が直接の原因となっています。
この事態は「五輪メダリストでも遠征費を捻出できない可能性がある」ことを示しており、アスレティックトレーナーとしてアスリートを支援する立場としては、競技団体やスポンサーとの連携の重要性を再認識させられるケースといえるでしょう。
アスレティックトレーナーに求められる視点
1. 資金調達やスポンサー活動のサポート意識
アスレティックトレーナーの仕事は本来、選手の身体を整え、ベストパフォーマンスを引き出すことが最優先です。しかし近年は、選手のキャリアや活動資金面も含めて幅広くサポートする機会が増えています。
- スポンサーとの契約を円滑にするための情報提供
選手がスポンサー企業とやり取りする際、トレーニング計画や成果などを数値化して伝えられるようにサポートすると説得力が増します。 - 遠征計画やスケジュール管理の相談役
限られた予算で効果的に遠征を組むためには、試合スケジュールと身体づくりの最適化が欠かせません。トレーニング期と試合期を考慮した戦略的なスケジューリングが必要になります。
2. 総合的なリスクマネジメント
資金難から、選手が海外遠征の回数を減らす、あるいは安価な移動手段や宿泊施設を選択する場合もあるでしょう。そうした状況では疲労リスクの増大やトレーニング環境の悪化が懸念されます。
- 移動リスクやコンディショニングへの注意喚起
長時間の移動や不慣れな環境は、筋疲労や怪我のリスクを高める原因となります。選手と事前にリスクを共有し、できる限り安全かつ効率的なアプローチを考えることが大切です。 - 医療スタッフとの連携強化
海外遠征での自己負担が増えると、医療体制も万全とはいかなくなることが考えられます。遠征中に対応してくれる医療スタッフや現地病院の情報を事前に把握しておくなど、危機管理の徹底が必要です。
3. 情報収集とネットワークづくり
アスレティックトレーナーにとって、競技団体や協会の方針、企業スポンサーの動向、助成金制度の変更など最新の業界ニュースをキャッチアップすることは欠かせません。
- SNSやオフィシャル情報のチェック
オリンピックやワールドカップなどの大きな大会後には、助成金や協会制度の見直しが実施されることが多々あります。最新情報をいち早く入手し、選手と共有できるようにしておくと信頼度が高まります。 - 競技横断のコミュニティ参加
フェンシングやバドミントンなど、競技を問わず似たような状況が起きています。競技を超えたアスレティックトレーナー同士のネットワークがあれば、有益な事例共有や情報交換が可能になるでしょう。
今後の展望とアスレティックトレーナーの可能性
スポーツ界のビジネス化が加速
国内外を問わず、スポーツビジネス化の流れはさらに加速すると考えられます。スポンサーシップやクラウドファンディングなど、新たな資金調達方法を取り入れるケースも増えるでしょう。この動きの中で、アスレティックトレーナーの業務範囲も広がり、選手やチームを総合的にサポートする職域が求められます。
独立系ATの活躍機会拡大
企業チームに属さない独立系のトレーナーやフリーランスATは、柔軟に複数の選手を支援できるメリットがあります。今後は個人でスポンサーを探すアスリートや、競技団体による支援が受けにくいアスリートとのマッチングが増えるかもしれません。これにより、新規契約や多種多様な競技との連携が期待できます。
医療やITとの融合
近年はリカバリーを強化するためのウェアラブルデバイスやデジタル技術が一般にも普及しています。アスレティックトレーナーがこれらのテクノロジーを活用できれば、遠征や資金面での制約が大きい環境下でも効率の良いトレーニングサポートができるでしょう。
まとめ
スポーツ業界の金銭事情は今、大きく変化しています。強化費の削減や遠征費の自己負担など、選手を取り巻く環境はますます厳しくなっているのが現状です。その一方で、ビジネス化の進行や新たなスポンサーシステムの導入により、選手やトレーナーにとって新たなチャンスが広がる可能性もあります。
アスレティックトレーナーとしては、「選手のパフォーマンスを最大化する」という本来の役割を果たしつつも、資金調達や遠征スケジュールのリスク管理、スポンサー活動のサポートなど、これまで以上に多角的な視点でチームや選手を支える力が求められているのです。
こうした厳しい局面こそ、経験や専門知識を活かして選手のケガ予防やコンディショニングを徹底し、“限られた予算”でも最大限の成果を出すためのアドバイスができるアスレティックトレーナーの存在意義が増すはずです。ぜひ日頃から最新情報をキャッチアップし、選手・チームと一丸となって、この変革期を乗り越えていきましょう。
関連サイト
JSPO 日本スポーツ協会
わが国におけるスポーツ統括団体「JSPO(日本スポーツ協会)」の公式サイト。国民体育大会や日本スポーツマスターズの開催、スポーツ少年団の運営など。
公益財団法人日本パラスポーツ協会(JPSA)
日本パラスポーツ協会(JPSA)は、国内における三障がいすべてのスポーツ振興を統括する組織で、障がい者スポーツ大会の開催や奨励、障がい者スポーツ指導者の育成、障がい者のスポーツに関する相談や指導、普及啓発などを行っています。