
- 1. 熱中症対策義務化の全貌と、理学療法士・アスレティックトレーナーが現場で果たすべき役割とは
- 1.1. 熱中症対策の義務化とは?
- 1.1.1. なぜ2025年6月に法改正されたのか?
- 1.2. 誰が対象となるのか?
- 1.3. 事業者に求められる3つの法的義務
- 1.3.1. 1. 早期発見体制の整備
- 1.3.2. 2. 初期対応手順の文書化
- 1.3.3. 3. 教育・周知・訓練
- 1.4. 理学療法士・アスレティックトレーナーの役割とは?
- 1.4.1. 医療従事者としての介入
- 1.4.2. 教育者としてのリーダーシップ
- 1.5. 現場で今すぐできる準備とは?
- 1.6. 違反時のペナルティ
- 1.7. 今後のスケジュールと行動計画
- 2. まとめ:暑さを見逃さない文化を
熱中症対策義務化の全貌と、理学療法士・アスレティックトレーナーが現場で果たすべき役割とは
2025年6月1日より、厚生労働省によって改正された「労働安全衛生規則」が施行され、職場における熱中症対策が法的義務として事業者に課されることになりました。これまで努力義務であった熱中症対策が法制化されることで、現場の安全管理体制が大きく変わろうとしています。
本記事では、理学療法士やアスレティックトレーナーとして実務に携わる皆さんに向けて、法改正の概要から具体的な対応策、そして自らの職能を活かす方法まで解説していきます。
熱中症対策の義務化とは?
なぜ2025年6月に法改正されたのか?
厚生労働省が本改正に踏み切った背景には、近年、熱中症による労働災害が急増している現状があります。特に夏場の屋外工事や厨房、空調が効きづらい倉庫・リハビリ室などでの事故が目立ち、死傷者数も増加傾向にあります。
また、気候変動の影響で日本の夏は以前にも増して過酷な環境となり、熱中症はもはや"想定外"では済まされない問題です。厚労省はこれらを受け、現場での熱中症の早期発見と初期対応を制度化する必要があると判断しました。
誰が対象となるのか?
改正された規則は、すべての業種の事業場に適用されます。理学療法士が働く病院・老健施設・デイサービス、アスレティックトレーナーが所属するスポーツチームやフィットネスジムなど、例外はありません。
特に以下の条件に該当する作業環境がある場合は、対策の実施が義務となります:
- WBGT(湿球黒球温度)28℃以上、または気温31℃以上
- 上記環境下で連続1時間以上、もしくは1日4時間を超える作業がある
ホットパックや温熱機器を使うリハ室、空調が不安定なトレーニングジム、屋外でのコンディショニング指導などが対象になり得ます。
事業者に求められる3つの法的義務
1. 早期発見体制の整備
熱中症を疑う症状を呈した作業者が、すぐに報告できる"仕組み"を作ることが求められます。
- 担当者の明確化(作業責任者、看護師、PT、AT など)
- 通報ルートの整備(口頭、チャット、掲示)
- 通報しやすい雰囲気づくり(心理的安全性の確保)
2. 初期対応手順の文書化
作業者が熱中症を発症した場合の対応フローを文書化し、関係者に周知します。必要な内容は以下の通りです。
- 作業の中断と安全な場所への退避
- 冷却方法(アイスベスト、冷水、ミストなど)
- 医師による診察・必要に応じた搬送
- 緊急連絡網の整備
3. 教育・周知・訓練
- 年に1回以上の講習、シミュレーション訓練
- WBGTや暑熱順化についての教育
- BLS講習への熱中症対応項目の追加
理学療法士・アスレティックトレーナーの役割とは?
医療従事者としての介入
理学療法士は、現場の温熱環境の管理や体調確認においても重要な役割を担います。温熱療法室でのWBGT管理、リハ中のバイタルチェック、患者の訴えへの対応は、日常業務に直結する内容です。
また、ATにおいては、選手の発汗量・体温変化の観察や、WBGTに基づいた練習計画の立案、暑熱順化プログラムの実施など、現場でのリスクマネジメントが求められます。
教育者としてのリーダーシップ
- 熱中症のサイン(めまい、倦怠感、皮膚蒼白など)をわかりやすく伝える
- 学生トレーナーや新人セラピストへの指導体制を構築する
- 職場内における安全文化を浸透させる
現場で今すぐできる準備とは?
- WBGT計の設置と毎日の記録開始
- 手順書の作成と定期的なアップデート
- 空調設備や休憩所の見直し、改善提案
- 夏季前の模擬訓練(BLS+熱中症対応)
違反時のペナルティ
法改正により、必要な対策を講じずに労働者が熱中症に罹患した場合、労働安全衛生法第22条違反となり、
6か月以下の懲役 または 50万円以下の罰金
という罰則が科される可能性があります。医療機関やフィットネス施設であっても、労働環境管理の不備が明らかであれば責任を問われるのです。
今後のスケジュールと行動計画
月 | 対応項目 |
---|---|
~2025年3月 | 担当者の選定、WBGT計の購入、文書化準備 |
2025年4月 | 教育資料の作成、全スタッフへの研修実施 |
2025年5月 | 訓練実施、掲示物の準備、シミュレーション訓練 |
6月1日以降 | 実運用、定期的な評価と改善 |
まとめ:暑さを見逃さない文化を
2025年の熱中症対策義務化は、単なる規則の強化にとどまらず、"命を守る文化"への転換を促す重要な一歩です。理学療法士・アスレティックトレーナーという医療と現場をつなぐ立場だからこそ、私たちは率先してその仕組みづくりに携わる責任があります。
熱中症は予測できる災害です。だからこそ、予防こそが最大の防御策です。すべての現場で、誰もが安心して働き、回復し、鍛えるために——私たちの知識と行動が、その基盤となるのです。
関連サイト
JSPO 日本スポーツ協会
わが国におけるスポーツ統括団体「JSPO(日本スポーツ協会)」の公式サイト。国民体育大会や日本スポーツマスターズの開催、スポーツ少年団の運営など。
公益財団法人日本パラスポーツ協会(JPSA)
日本パラスポーツ協会(JPSA)は、国内における三障がいすべてのスポーツ振興を統括する組織で、障がい者スポーツ大会の開催や奨励、障がい者スポーツ指導者の育成、障がい者のスポーツに関する相談や指導、普及啓発などを行っています。