理学療法士必見!患者の信頼を勝ち取るリハビリ算定時間のポイント

1.はじめに:岩国医療センターの不適切請求問題とは

2024年12月、山口県岩国市の国立病院機構岩国医療センターで、リハビリテーション科が診療報酬をおよそ7,000万円分、不適切に請求していたことが明らかになりました。具体的には、リハビリが実際より長く入力されるなどの事例が多数確認され、3年前(令和3年)4月から2024年9月までの期間で不適切な請求が行われていたとされています。院長は謝罪し、対象となる約6,000人の患者や健康保険組合などに返還対応を行う方針です。

この事件は意図的な不正ではなく、担当スタッフがほかの業務との兼ね合いでリハビリに要した正確な時間を記録できなかったと報じられています。しかし、社会全体の「情報化」が進んだ今、患者さんやご家族は簡単に正しい情報を入手できるため、リハビリ時間の算定やリハビリテーション実施計画書の内容に敏感になっています。私たち理学療法士も今回の件を他人事とはとらえず、自らの業務を見直すきっかけにしていきましょう。

2.情報社会の患者ニーズ:リハビリ算定時間や計画書への注目度が高まる理由

1.インターネット検索の普及

近年は、患者さんやご家族が医療・介護・リハビリテーションの知識を簡単にインターネットで調べられる時代です。たとえば「リハビリテーションの算定時間」「リハビリテーション実施計画書」「リハビリ単位の計算方法」といったキーワードで検索すれば、一定の知識が身につきます。スタッフが曖昧な説明をすると、「本当はどうなの?」と疑念を招きやすくなります。

2.患者の権利意識の高まり

リハビリの経過や時間が正確に記録され、治療計画書と合致しているかどうかは、患者さんにとっても大きな関心事です。以前のように「医療側が決めること」という考え方だけでは通じず、患者さん自身が積極的に意見を言うケースも増えています。理学療法士としては、説明責任を果たす姿勢が求められています。

3.リハビリ算定時間の管理が重要な理由

1.患者との信頼関係を築くため

理学療法士や作業療法士などリハビリ職の業務は、患者さんとのコミュニケーションが鍵です。正しいリハビリ時間を算定し、誠実に計画書を作成することが、患者さんやご家族からの信頼を得る第一歩となります。不適切な算定が疑われると、真摯にリハビリに取り組んでいても「本当にやってくれているのか?」と不安を感じさせてしまいます。

2.施設全体のコンプライアンスと経営リスク

医療機関において、リハビリ算定の不適切な請求は大きな経営リスクとなります。今回の岩国医療センターの事例のように、大きな金額の返還や社会的信用の低下につながるため、施設全体でコンプライアンスを強化する必要があります。理学療法士としても、コンプライアンスの視点を忘れずに日々の業務を行うことが大切です。

4.実務で気をつけたいポイント

1.リハビリテーション実施計画書の正確な作成と更新

  • 患者の状態把握を徹底する
    リハビリテーション実施計画書を作成する際は、患者さんの疾患や日常生活動作(ADL)、ゴール設定を正しく把握することが大前提です。医師や看護師、ほかのコメディカルスタッフとの情報共有をスムーズに行い、計画書の内容を明確にしましょう。
  • タイムリーな計画書の更新
    状態が変化しているにもかかわらず、古い計画書を使い続けると不適切な算定やリハビリ方法のミスマッチにつながります。定期的なカンファレンスやチームミーティングで計画書を見直し、適時に更新を行うことが必要です。

2.リハビリ時間の正確な記録

  • 患者さんが実際にリハビリを受けた時間を厳密に計測
    ストップウォッチやタイマーなどを活用し、開始・終了時刻を記録することで誤差を最小限に抑えます。
  • システム入力時の二重チェック
    リハビリ終了後、すぐに電子カルテやリハビリシステムへ入力する習慣をつけ、後で一括して入力するような運用を避けましょう。間違いが発生しやすくなるだけでなく、勤務後にまとめて入力していると思わぬ入力ミスが起きる可能性があります。

3.スタッフ間の連携と業務効率化

  • 業務量が多いときこそチームでカバー
    今回の岩国医療センターの事例でも「業務に追われて正確な時間を記録できなかった」という背景がありました。忙しいときは複数スタッフでサポートし合うなど、チームワークの強化が重要です。
  • 業務効率化ツールの活用
    表計算ソフトや電子カルテのスケジュール管理、クラウドツールなどを使い、リアルタイムでリハビリ状況を共有できる仕組みを作ることも有効です。

5.リハビリ職としての誇りを守るために

不適切な算定は「意図的でなかった」としても、患者さんには大きな不信感を与えます。私たち理学療法士が目指すのは、患者さんが少しでも早く自立した生活を取り戻せるようサポートすること。そのためには、常に正確なリハビリ時間と適切な計画書の作成・運用が欠かせません。

今回の岩国医療センターの件は、決して他人事ではありません。情報社会のなかでは、患者さん自身がリハビリテーションの算定基準や実施計画書の内容を理解しているケースが増えています。私たちの行動ひとつひとつが、患者さんの信頼やリハビリ職全体の評価に直結することを忘れずに、日頃から丁寧な実践を心がけましょう。

6.まとめ

  • 今回の事件: 岩国医療センターで約7,000万円分のリハビリ診療報酬が不適切請求となり、患者や保険組合へ返還の見通し。
  • 背景: リハビリ終了時間と入力時間のズレ、20分に満たない時間を1単位として算定などが原因とされる。
  • 学び: 意図的な水増しではなくても、患者や社会からの厳しい視線は避けられない。情報化社会では患者サイドもリハビリ算定や計画書の知識を容易に得られる。
  • 今後の対策:
  1. リハビリ実施計画書の内容を正確に作成・更新する。
  2. リハビリ時間の記録を厳密に行い、入力時に二重チェックする。
  3. スタッフ間で業務を分担し、チームワークで正確さと効率化を両立する。

理学療法士としての責務は、患者さんに正確な医療を提供し、その上で安心してリハビリを受けてもらうことです。今回の出来事を教訓に、もう一度自院の記録方法や算定ルールの運用を振り返り、不備があれば早期改善に努めましょう。

関連サイト

公益社団法人日本理学療法士協会 国民の皆さま向けトップ

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JSPO 日本スポーツ協会

わが国におけるスポーツ統括団体「JSPO(日本スポーツ協会)」の公式サイト。国民体育大会や日本スポーツマスターズの開催、スポーツ少年団の運営など。

公益財団法人日本パラスポーツ協会(JPSA)

日本パラスポーツ協会(JPSA)は、国内における三障がいすべてのスポーツ振興を統括する組織で、障がい者スポーツ大会の開催や奨励、障がい者スポーツ指導者の育成、障がい者のスポーツに関する相談や指導、普及啓発などを行っています。