
理学療法士として避けて通れない「倫理観」――他職種の事例から学ぶSNS活用の注意点
理学療法士として日々臨床に携わる皆さんは、患者さんの身体機能回復をサポートするだけでなく、人としての尊厳を守る重要な役割を担っています。近年、SNSなどを使った情報発信が当たり前になり、リハビリの現場でも学習成果や研修の様子を共有する場面が増えています。しかし、その一方で、医療従事者としての倫理観やプライバシー配慮が問われるケースが後を絶ちません。今回は、ある美容外科医による解剖研修のSNS投稿が批判を浴び、謝罪に至ったケースをもとに、理学療法士としての「倫理観のあり方」「SNS活用の注意点」について改めて考えてみましょう。
1. SNS投稿が問題視された美容外科医の事例とは
東京美容外科の医師・黒田あいみ氏が、グアムの解剖研修での写真をSNSに投稿し批判を浴びました。解剖中の写真をモザイク処理する意識はあったものの、一部不十分な部分があり、不快に感じる人が続出。また「頭部がたくさんあるよ」などの言葉が「不謹慎だ」と受け取られ、結果的に医師自身も「配慮に欠けていた」「倫理観が不足していた」と認め、謝罪する事態となりました。
この一連の流れは決して他人事ではありません。医師だけでなく、私たち理学療法士を含む医療職全般に共通する問題として捉えるべきです。
2. 理学療法士にとっての「倫理観」とは
2-1. 患者の尊厳を最優先に考える姿勢
理学療法士は、患者さんの生活の質(QOL)を向上させるために身体機能回復をサポートします。その際、患者さんが苦痛なく安全にリハビリを受けられるように配慮し、人としての尊厳を守ることが何より大切です。今回の事例で問題とされたのは、解剖に用いられた「遺体」の尊厳が損なわれたと捉えられた点です。理学療法士が研修や学会などで学びを深めるうえでも、たとえ情報発信する目的であっても、被検体や患者さんの尊厳を最優先に考える必要があります。
2-2. プロフェッショナルとしての姿勢
理学療法士は国家資格保持者であり、社会から高いレベルのモラルが求められます。専門知識を活かすだけでなく、その行動が「理学療法士全体のイメージ」にも直結するのです。今回のケースは美容外科医でしたが、「医療職であること」に変わりはありません。他職種の問題だからといって他人事と捉えるのではなく、自分自身のSNSでの発信や、研修・学会発表の資料づくりなど、常に自身を客観視する姿勢が大切です。
3. 解剖研修や実習をシェアする際の注意点
3-1. 画像や動画の取り扱い
解剖研修や筋骨格系のセミナーなど、理学療法士向けの実習は学びに大きく貢献します。しかし、臨床現場や研修風景をSNSで共有する際は、被写体となる人体(遺体を含む)の尊厳保護が最優先です。万が一写真を使う場合には、個人情報やご遺体の特定につながる要素が含まれないようにモザイク処理や画像加工を適切に行いましょう。とくに生々しい表現や映像は、不快感を与えるリスクが高いため慎重な判断が求められます。
3-2. 言葉選びとコミュニケーション
SNSは瞬時に多くの人に情報が広がる便利なツールですが、その分言葉選びに失敗すると大きな批判につながります。たとえ学術的意義があって投稿した内容でも、表現が不適切だと誤解や反感を招くでしょう。医療者である前に、一人の人間として「死や病気」に対する敬意を忘れない言葉遣いを徹底しましょう。
4. 理学療法士がSNS活用する際のポイント
- 情報の「受け手」を意識する
同業者だけでなく、一般の方も閲覧する可能性があるので、誤解を与えない表現と配慮が重要です。 - 個人情報保護や守秘義務の厳守
患者さんの写真や動画を投稿する場合、たとえ顔や個人が特定できないようにしていても、許可を得るなど細心の注意を払いましょう。 - 学術的な裏付けを添える
リハビリ方法や解剖学的知見を投稿する際は、根拠となる文献やガイドラインを示し、読者に正確な情報を提供します。 - 自分自身の「リスク管理」
どんなに良い内容を投稿していても、言葉選びひとつで炎上リスクが高まります。第三者にレビューを依頼するなど、客観的にチェックを受けると安心です。
5. まとめ
今回の美容外科医による解剖研修のSNS投稿問題は、理学療法士をはじめとする医療従事者にとっても他人事ではありません。遺体や患者さんに対する敬意を常に念頭におき、社会的責任を担う専門職として情報発信の影響力を意識することが求められます。
SNSが普及している現代だからこそ、理学療法士もオンライン上でのコミュニケーションにおいて倫理観やモラルをしっかりと守り抜く必要があります。研究や研修の成果は、確かに共有することで多くの人の学びにつながります。しかし、その背景には「人の尊厳」を大切にする気持ちがなければなりません。
日頃の臨床や学習成果を発信する際は、自分の投稿が誰に向けられ、どんな印象を与えるかを常に考え、理学療法士としての専門性と責任感を示していきましょう。
関連サイト
JSPO 日本スポーツ協会
わが国におけるスポーツ統括団体「JSPO(日本スポーツ協会)」の公式サイト。国民体育大会や日本スポーツマスターズの開催、スポーツ少年団の運営など。
公益財団法人日本パラスポーツ協会(JPSA)
日本パラスポーツ協会(JPSA)は、国内における三障がいすべてのスポーツ振興を統括する組織で、障がい者スポーツ大会の開催や奨励、障がい者スポーツ指導者の育成、障がい者のスポーツに関する相談や指導、普及啓発などを行っています。